|
情報技術(IT)革命から「知の共有社会」へ――。インターネットがもたらした情報化社会はモバイルやブロードバンド(高速大容量通信)技術の進展により、新たな段階を迎えようとしている。欲しい情報がいつでもどこでも手に入る「ユビキタス(遍在)コンピューティング社会」の出現である。そこでは我々のビジネスや生活のスタイルも大きく変わっていく。
4月19日から東京・西新宿で「アースデイ2001東京」を祝うイベントが華々しく開かれる。アースデイは地球環境保護を目的として1970年から米国で始まった市民運動。4月22日を「地球の日」と定め、毎年、世界各国で様々な行事が開かれている。今年は高速インターネットを使い、各地の模様を音と映像で結ぶ。
「ブロードバンドだと臨場感が違うはずです」。イベントを支援する丸紅系の通信会社、ヴェクタントグループの麻生菜穂美氏は高速回線の威力を強調する。麻生氏は長野冬季五輪の元広報責任者。長野五輪ではIBMの協力によりインターネットで情報を配信し、世界的に大きな注目を浴びたが、今度は動画像で視聴者に訴える。
地下十数メートルの情報スーパーハイウエー――。今年のアースデイの情報提供を支えるのが西新宿の高速ビル街の地下を走る全長4キロメートルの光ファイバー網だ。東京ガス保有の地域冷暖房トンネルに光ファイバーを通し、毎秒1.5-155メガビットの高速接続を提供する。ヴェクタントと東京ガスが設立したメトロアクセスが4月20日から開始するサービスだ。
さらにこの回線は昨年12月に開通した都営地下鉄12号線(大江戸線)沿いに敷設された高速基幹網とも接続される。首都に働く人々の足がJR山手線でつながれているように、今度は光ファイバーの環状線が東京の人々のブレーン(頭脳)をつなぐ。
急拡大する市場
「電子商取引や携帯情報サービスなどの広がりでデジタルコンテンツ(情報の中身)市場は今年、一気に2000億円になるだろう」。今年から本格サービスを開始したインターネット・データセンター、グローバルセンター・ジャパンの岡田智雄社長は日本におけるブロードバンド時代の到来をこう予測する。
政府が発表した「e―ジャパン構想」によると、5年以内に超高速回線を1000万世帯、通常の高速回線を3000万世帯に普及させるという。隣の韓国ではすでに世帯数の28%にあたる400万世帯に高速回線が導入された。日本も真剣に取り組めば「年末には500万世帯に高速回線が普及し、動画像などが配信されるに違いない」という。
米国でもフォレスターリサーチなどによれば、2005年までに全世帯の半数に高速回線が普及する見通しだ。すでにインターネット利用者の半数近くが音楽や動画像をネットで視聴しており、「面白いコンテンツさえ提供すればブロードバンドは急速に立ち上がる」と米ブロードバンド放送局、FMiTVネットワークスのローレンス・ノージーン会長は強調する。
3月8、9日の2日間、東京・大手町の日経ホールで開かれた「世界情報通信サミット(GIS)2001」(主催日本経済新聞社)はまさにこうしたブロードバンド時代の情報戦略を議論する場として設けられた。
今年は第四回目を迎え、「ユビキタス時代を拓く――いつでも高速ネットワーク」をテーマに国内外の企業経営者や政策責任者が真剣に議論を交わした。
基調講演に立った米連邦通信委員会(FCC)の前委員長、ウィリアム・ケナード氏は「インターネットが半数以上の家庭に広まった今、次の標的はブロードバンドの普及だ」と指摘。それを実現するには「政府は一層の規制緩和が必要だ」と強調した。
もう1人の基調講演者である日立製作所の庄山悦彦社長は「情報化社会は現在利用価値の時代」と分析。多くの情報がネットで容易に手に入る今、「様々な情報を組み上げ、いかに付加価値を高められるかが国家や個人の存在価値になる」として、「知性の輪」の重要性を訴えた。
世界情報通信サミットは毎年、「世界情報基盤委員会(GIIC)フォーラム」の後援で運営されているが、今回から新たに「日経デジタルコア」が事務局として設立された。28社で構成される「GIS推進フォーラム」は「デジタルコアGISフォーラム」と改称された。
「ユビキタスコンピューティング社会」の「ユビキタス」はもともと「(神は)どこにでも遍在する」という意味の言葉だ。それがコンピューターについて語られ始めたのは、現代の知性をコンピューターが神に代わって一部担い始めたからともいえる。
安全確保が重要
ユビキタス情報社会の実現には基本的に二つの条件が要る。一つは動画像などを短時間で入手できる高速接続。もう一つは着信がリアルタイムでわかる常時接続。NTTドコモの携帯情報サービス「iモード」が成功したのも、パケット通信の採用で自動着信ができたからだ。
ユビキタス情報社会ではもう一つ重要なポイントがある。セキュリティー(安全性)の確保やプライバシー保護だ。常時接続が可能になるということは、絶えず自分の情報が相手から盗み見される可能性が出てくるためだ。
オープンなネットワークの広がりは「知の共有」をはぐくむ。それが新しい経済価値を生むのが情報化社会だ。産業革命が資本主義を助長したように、IT革命は新たな“情報主義”を促す。我々は人間の知性を最大限に生かすインフラ作りを進める一方で、自らの情報を守る環境を早急に整えていかねばならない。(編集委員 関口和一)
世界情報基盤委員会(GIIC)フォーラム 米政府が提案した「世界情報基盤構想(GII)」を民間レベルで推進するため、95年に設立された国際組織。
日経デジタルコア 情報分野における相互交流を目的として日本経済新聞社が設立した情報ハブ組織。
デジタルコアGISフォーラム ヴェクタント・ジャパン、エクストリームネットワークス、NEC、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、オービック、関西電力、KDDI、コダック、コンピュータ・アソシエイツ、大和証券グループ本社、TDK、東京通信ネットワーク(TTNet)、東京ガス、東芝、日本テレコム、日本BT、日本ユニシス、野村証券、野村総合研究所、日立製作所、富士ゼロックス、富士通、松下電器産業、三井物産、三菱商事、安田火災海上保険、リコーの28社で組織する。
|